松崎天民「五月何や彼や」『騒人』昭和2年6月号

これはコピーではなく、一部メモを取ってきた。

 殆ど毎日のやうに、午後四時頃の永井荷風氏を、銀座のカフエータイガーに見る。
 この老作家に依て、やがて銀座の色調が、感慨深い随筆となつて、公にされることがあるかも知れない。新しい東京、新しい銀座、新しい女―さう云つた時代の醸酵を、この作家は何んな風に観じて居るのか。
 いゝ齢をして―などゝ云ふが、私なども毎日のやうに、銀座へ出かけて居るのはそこに時代の囁きを聴かうためでもある。