福田恒存『文芸評論集 平衡感覚』

真善美社 昭和22
西部古書会館・本の散歩展(文紀堂書店)にて1500円で購入

主―ほんとうかね、君の絶望といふのは。
客―伊達や義理で絶望する奴もないぢやないか。
主―ないこともないがね……みえやかんばんで進歩主義、民主主義の啓蒙をくちにするものもあると同様に、このごろは絶望もそろそろ合言葉式に一種の安住点になりはじめてきたやうだ。
客―たしかにそれはあるね。
主―しかもこいつは民主主義より深刻で、しやれてゐる。なによりつごうのいゝことには、ひとたび絶望を表明しておけば、あとは懐手でなんにもせずにゐていゝ。まあ革命への行進によつて自分の位置を脅かされる反動派の、いはゞ手のこんだ保身の術だね、その絶望つてやつは。

「自問自答」のこういう一節